結衆の名誉住職様の本葬儀

昨日、結衆(お寺の世界の町内会のようなもの)の寺院の名誉住職様の本葬に、職衆として参列しました。
寂年91歳(数え)の御遷化です。

以前も書かせて頂きましたが、

真言宗で、お葬式の際、亡くなった方に対し、お導師様が行う作法を「引導作法」と言いますが、これは亡くなった方に戒律を授け、仏さまの弟子にして悟りを開かせ成仏に導くという作法です。
ですから、すでに出家得度している僧侶の葬儀、特に自分より僧侶歴(法臈)の長い僧侶に対しては、引導作法は必要ないとも言われています。(色々な解釈がありますが、引導作法を行わない場合は、在家の葬儀とは違うスタイルの法要が営まれます。)(全文参照)

今回も、名誉住職様に対しては、頓証菩提(速やかに成仏するように)を祈るのではなく、増進仏位(さらに徳を積み重ねていかれますように)という気持ちで拝ませて頂きました。

名誉住職様と初めてお会いしたのは平成元年の12月、仁和寺の伝法灌頂(でんぽうかんじょう)の控え室でした。
伝法灌頂は、お大師様の弟子として一人前の僧侶と認められる、真言宗で最も大切な儀式の一つです。(「真言僧侶になるには」参照)
私はまだ密教学院の院生で、四度加行(灌頂を受けるための修行)が終わったばかりで初めての灌頂でしたが、名誉住職様(当時は御住職)はお若い頃に一度、他の流派で灌頂を受けられているので、2度目の灌頂でした。(以前は、どの流派で灌頂を受けても御室派の住職になれたのですが、本山のルールが変わり、末寺の住職は仁和寺が相承する流派で灌頂を受けなければならなくなったので、あらためて受けに来られていたのです。)

伝法灌頂の儀式は合計6時間ほど正座しなければならないので、控え室では少しでも体力を温存し、足を崩したり仮眠をとったりしている受者が多い中、名誉住職様は一人静かに正座をして、ずっと瞑想をされているかのように時を待っておられました。
最後までその姿勢を崩さなかった様子を見て、密教学院で修行した同期で「この方はいったいどのような方なのだろう」と話していたのが思い出されます。

その方が同じ結衆寺院の方だと知るのは、地元に帰ってのことで、その人徳に深く触れ、様々なことを教わるのは、まだ2年先のこととなります。

葬儀でご紹介されている略歴で、名誉住職様は11歳の時に在家からお寺の弟子として入山し、住職になるまで40年近くも辛抱されたことが分かりました。
それを考えると、この方にとっては、一日中正座をしていることなど何の苦労でもなかったのだなと改めて感じました。

現在の自分は、跏坐(かざ=座禅の座り方)で登壇する機会が増え、また、檀家さんの葬式でも会館で行うので椅子が多く、法事においても1時間以上かかることがほとんどないので、正座することが少なくなっている今日この頃です。
しかし、今回の本葬は1時間半から2時間くらいの時間、久しぶりの少し長めの正座です。
重たい納衣を着けて、足は少なからず痺れましたが、あの時の名誉住職様を思い出しながら新たに自分を戒めつつ、心より増進仏位の気持ちを届けさせて頂きました。