第17号特集 .仏様が見ている―智恵のお話(H21.3.15)
○はじめに
以前「菩提心」3号で、お仏壇のお供え物と六波羅密のお話をさせていただきました。
私たちが亡くなったとき、無事に悟りを開いて仏さまの世界に入るためには、生きている間にやらけなればならない六つの大切な行い(波羅密行(はらみつぎょう))があり、仏壇の六種類のお供え物がそれぞれの行いのシンボルであるというお話です。
そして、今までに「お水」がシンボルとなっている「布施」と、
「お線香」がシンボルとなっている「精進」という、
二つの波羅密行(はらみつぎょう)を、別々にご紹介して来ました。
今回は灯明(ロウソク)がシンボルである「智恵」という波羅密行を取り上げてお話しをさせていただきたいと思います。
灯明の明かりは暗闇を隅々まで照らす力があるので、正しい智恵によって悩みや迷いが取り除かれるということが、この灯明に例えられているのです。
今回は正しい智恵を持つことの大切さについてお話をしていきたいと思います。
○仏様の知恵
私の小さい頃には、
「悪いことをしたら、どんなに隠しても、神様や仏様には分かるんだよ。」
とか、
「嘘をついたら、えんま様に舌を抜かれるよ。」
などという言葉が使われていましたが、最近は、そんな言葉を聞くことは、ほとんどなくなったように思います。
今では
「いくら隠したってお天道(てんとう)様はお見通しだ。」
などというセリフは時代劇ぐらいでしか聞かれなくなりましたが、このように、神様や仏様、お天道様など、私たちが崇拝(すうはい)しているものには、全てを見通す力(智恵)があるといわれています。
そこでまず、私たちの真言宗の仏様が持つ智恵とはどのようなものかをご紹介したいと思います。
私たち真言宗の仏様の智恵は、大きく四種類に分けられます。
一、大きな鏡のように、物事を隅々まで見渡せる智恵(大円鏡智(だいえんきようち))
二、ものを私情や偏見をはさまずに本質は平等だと観じる智恵(平等性智(びようどうしようち))
三、一つのものを深く深く理解する智恵(妙観察智(みようかんさつち))
四、物事を知るだけではなく、どうすればうまくいくかを考える智恵(成所作智(じようそさち))
の四つです。
(ちなみに、これら四つの智恵がすべて備わったものを「法界体性智(ほうかいたいしょうち)」とよび、これは大日如来様が持つ智恵です。これら五つの智恵を合わせて「五智」と呼びます)
仏様の智恵の力は、いつでもどこでも誰にでも及んでいます。
「こんなにがんばっているのに誰も褒めてくれない。」とか、
「何もしていないのに私がやったと思われている。」
と思っていても、仏様はちゃんと分かってくださっています。
逆に、
「誰も見ていないからゴミをポイ捨てしても大丈夫。」とか、
「ごめんなさいとは言ったけれど、実は全然反省していない。」
などという、自分に都合の悪いことでも、仏様にはすべてお見通しです。
仏様には隠し事(かくしごと)ができないと言われるのは、仏様がこのような知恵を持っているからなのです。
○正しい知恵をもつこと
ですから、
「仏様がいつも見ている。仏様は何でも知っている。」
と考えて行う行動は、
「人が見ているかいないか。」
で決めるような裏表のある行動ではなく、本当に正しい行動になるのです。
心に仏様を感じて行動するということは自分に正しい心を養うということです。
そして何が正しいかを考え、理解し、行動するためには、私たちにも仏様のように「智恵」が必要になってくるのです。
仏様の持つ四つの智恵に自分の智恵を近づけていくことが、仏様に近づいていくことであり、そういう生き方をしていくことこそが自分が亡くなったときに仏様の世界にいけるための修行なのです。
皆さんも、ロウソクに火を点ける時は、「仏様はこの明かりのように、隅々まで見える大きな智恵で私たちのことを見守ってくださっている。」ということを思い出し、仏様に恥じない正しい生き方とは何かを考えていただけると幸いです。
(以上)
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