菩提心30号ー自利と利他(二利双修)ー

第30号特集.自利と利他(二利双修)(H27.8.30)

○はじめに

以前、ある中学校が箸蔵寺を会場に十四歳になったことを祝う式典を行いました。
十四歳というのは武士の時代では元服の歳、時代が時代ならもう成人の歳であるということで、式典の目的は育ててくれた親に感謝しこれからの人生に対する決意を述べるというものでした。
式典に先立って、生徒達は自分の目標や決意を毛筆で半紙に書いて持ってきて、それを一人ずつ保護者の前で発表するという形をとっていました。

私は式典の後に法話を依頼されていたのですが、この式典を見て、せっかく書いてきた皆さんの書を使わせていただく方法を思いつきました。

○自分のためと誰かのため

「皆さんの書いたものをこちらに持ち上げて見せて下さい。皆さんの書いた言葉は二種類に分けられるんですよ。どういう種類か分かりますか。」

このように私は話しかけました。
生徒さん達の書いた書は大きく二つに分けられました。
一つは「努力」、「夢」、「県大会出場」というような自分を高めていこうとする言葉、もう一つは「思いやり」、「感謝」など誰かのための言葉です。

○二利双修

このような自分を高めていくことを自利(じり)といい、誰かのために何かを行うことを利他(りた)といいます。
どちらも大切なことですが、仏教ではその二つを共に行っていくこと「二利双修(にりそうしゅう)」が必要であると説かれています。

もし誰かが「周りを幸せにしたい」という気持ちを持っていたとしても、それに見合った力をつけていかなければそれは「ただ思っているだけ」です。

反対にいくら自分を磨く努力をしても、それを世の中に返そうという気持ちを持たないのであればそれは「生かされている」ことを理解していない人間です。
人は一人では生きていません。
例えば、仕事をするということは、ゼロから何か一つ職業を選ぶと考えているのかも知れませんが、もし世の中に自分一人しかいなければ、農業であろうが漁業であろうが、職業と呼ばれるものは本来は全部一人でやらなければいけないことです。
しかしながら、今は幸せなことにそのうちの一つ(またはいくつか)を懸命にやることにより、自分で全てをやらなくてもいい世の中に生かされています。
そういう世界の一員として存在しているということ、それに気づけば感謝の心、利他の心は自然と生まれてくるはずです。

このような話をした後、私は生徒の皆さんに、

「自分を高める言葉を書いた皆さんは、次は誰かのための言葉をもう一つ考えて下さい。そして、誰かのための言葉を書いた皆さんは自分を高める言葉をもう一つ考えてみて下さい。そしてその二つをこれからの目標に頑張って下さいね。」

と、お願いしました。

○おわりに

この話には続きがあります。
生徒さんの中にただ一人だけ自利と利他の両方の意味を持つ言葉を書いた女の子がいました。
それは「笑顔」という言葉です。

「笑顔っていい言葉ですね。いつも笑顔でいようという気持ちはきっと貴方を成長させるし、貴方の笑顔を見た周りの人も幸せな気持ちになりますね。」

と語りかけると、その少女は恥ずかしそうに、それでいて見ている私まで優しい気持ちになれる素敵な笑顔を返してくれました。

(以上)

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