第13号特集-家族の形態と宗教-

第13号特集 .家族の形態と宗教(H18.12.5)

○はじめに

数年前になりますが、当時、日文研(国際日本文化研究センター)の所長をなさっていた河合隼雄先生(現文化庁長官)の講演を拝聴する機会がありました。
その講演で、日本における仏教、欧米におけるキリスト教の関わり方が、それぞれの国の家族のスタイルと密接に関わっているという、大変興味深く、また分かりやすいお話を聞くことが出来ました。

○いろり文化の日本

河合先生は、日本の家族のふれあい方は「いろり文化」と名付けておられます。
これまでの日本は、二~三世代同居の大家族が多く、いろりを囲むように家族全員が集まって、食事をしたり団らんをしたりしていました。
そこで行われる宗教教育の中心は、お爺さん、お婆さんです。
「ご先祖を大切にしないといけない」
とか、
「お仏壇のお祀りの仕方はこうだ」
とか、
「法事やお葬式の参列の仕方はこうだ」
など、お爺さん、お婆さんがお寺に行って聞いてきた話や、自分の親から教わった話を子供や孫に聞かせるという形で家庭内の宗教の伝達が行われてきました。
本来、僧侶がしなくてはならない役割を、家庭内ではお年寄りが代わってくれたとも言えるわけです。

○個室文化の欧米

それに対して、欧米の家族のスタイルは「個室文化」であると河合先生は名付けておられます。
欧米ではそれぞれが自分の部屋を持ち、個を大切にするスタイルが早くから確立されているのです。
宗教教育においても、家族間の教育は全く行われず、個人個人が教会との結びつきを持っています。
つまり、たとえ家族内でケンカをしていても、日曜になると各自で教会に行き神父様のお説教を聞くのです。

○日本の家族形態の変化

このように、家族のスタイルの違いにより、日本と欧米では宗教の伝達方法に大きな差がありました。
しかし、近年の日本も、核家族化、個を大切にする生活スタイルに変わってきました。
それにともない、いろり文化に基づく「お年寄りから子供や孫へ」という伝達が機能しなくなり、仏教も、家庭内で教えを伝える手段を失ってしまったのです。
その結果、「(仏教に限らず)自分の家の宗教を知らない」とか、「親が亡くなった時、どの様にして良いか分からない」という若い世代が増えています。

○まとめ

この講演を聴き、今後は僧侶自らが、家だけではなく、直接色々な世代の人と結びついて仏教の教えを発信していく必要性を再認識しました。
話すのが得意ではない私が、法事の後にご家族の前で必ずお話をするようになったり、寺報やサイトを充実させなければと思ったのも、その頃だったと思います。
それと同時に、もし人との結びつきを持つことができてきたなら、仏教の教えによって、恩や感謝の心、家族の大切さを再発見して頂き、逆に、仏教によって断絶した世代間の対話の橋渡しが出来れば素晴らしいなと考えるようになりました。
これまで「家」に支えられてきた仏教が、逆に「家族」に対する恩返しをしていければいいな、などと思っているわけです。
もちろんかなり理想的なことを書いているのは百も承知ですが、僧侶として必ずできることはあるはずだと思っています。

当サイトの内容は、ご自由にリンク、引用して頂いて結構ですが、著作権を放棄するものではありません。
箸蔵寺による著作物の引用や転載の際は引用・転載元を明記していただきますよう、お願い申し上げます。