第4号特集. 布施のお話(H11.12.31)
○はじめに
お坊さんが布施の話をすると「お金の話が始まった。」と思う方が多いのではないでしょうか。特に、布施に「お」をつけて「お布施」にすると、ほとんどの人がお金のことだと考えるでしょう。
しかし、本来の布施の意味はそれだけではありません。布施とはお寺と檀家さんの間だけで行われるものではなく、全ての人と人との間に行われるやさしさのやりとりであり、自分が一歩仏さまに近づくための修行なのです。
○布施とは
前号では、お仏壇の六つのお供えの話をさせていただきました。お水やお花などのお供えは、私たちが悟りを開いて仏さまの世界に入るため、やらければならない大切な行い(波羅密行)のシンボルであるという話です。
その中で、水は全てのものを平等に慈しみ養う慈悲の徳があることから、水は全てに施しを与える「布施」のシンボルであると述べました。
つまり、慈悲の心を持ち、自分の持てるものを惜しまず、見返りを求めずに差し出すことが布施の本来の意味なのです。この布施の行を行うことによって、私たちが一歩仏様に近づけるのです。
○いろいろな布施
布施にはいろいろな形があります。ここではそのいくつかを紹介していきたいと思います。
先ず、みなさんがよく知っている「お布施」は「財施」と呼ばれるものです。言葉通り、財産を施すことです。法事やお葬式の際にお坊さんはお経をあげ、時には法話を行い、その後、檀家さんはお坊さんにお金を渡します。実は、この法事でお経を読むことや、法話をすることも僧侶が行う布施の一つなのです。お経を読んで正しい仏様の教えを説くこと(法施)や、法話やご祈念によって恐怖を除き安心を与えること(無畏施)は僧侶ならではの布施の形です。ですから、檀家さんと僧侶はお互いに布施の行を行っているのです。
次に、布施は僧侶と檀家さんの間だけで行われるものではありません。いつでもどこでも、誰にでも行うことの出来る布施もたくさんあります。ここでは『雑宝蔵経』というお経に説かれている、お金を使わないで行う七つの布施(無財の七施)を紹介しましょう。
一、優しいまなざし(眼施)
仏様のような優しいまなざしは人を快い気分にさせてくれます。相手に対する優しいまなざしも布施の一つなのです。
二、おだやかな顔(顔施・和顔施)
眼だけでなく顔も同様です。おだやかな顔は周りの人もなごやかな気持ちにさせる力を持っています。
三、優しい言葉(言施・言辞施)
口先だけのお世辞ではなく、心のこもった言葉をかけると、相手を幸せにすることが出来ます。
四、もちろん行動も(身施・力施)
箸蔵寺奉賛会の事務局長がよく言われる言葉に
「知恵の出ないやつは汗を出せ。」
という名言がありますが、汗を流して人のために尽くすということも、もっとも尊い布施行の一つです。
五、相手の気持ちになって考える(心施)
相手を思いやる慈悲の心を持つことも大切な布施の一つです。
六、譲り合う気持ち(座施・床座施)
座施とは座っている場所を変わってあげるという意味ですが、座席だけでなく、全てのものを分かち合い、譲り合う心が大切だという意味が含まれていると思います。
七、親切なおもてなし(舎施・房舎施)
舎施とは、一夜の宿を貸してあげる意味というです。それ以外にも困っている人を助けてあげること全体を指しているといえます。
これら七つの布施は、財産に関係なくいつでもどこでも、そして誰にでも行える布施です。
○まとめ
このように、一口に布施といってもいろいろな形の布施があるということが解っていただけたと思います。そして、どの布施にも共通して大切なことは、誰かに強制されていやいや行うものではなく、見返りを求めたりするものでもないということです。布施とは成仏するために徳を積む「自分の修行」なのです。
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